須藤晃という日本史に残る悪人面をブラ下げた男がいる。そのままでも悪人面だというのに、雑誌のインタビューページだと写真はモノクロちっくに薄暗く撮ったりするから、もうすっかりマフィアのボスに仕上がってしまう。この面で職業がプロデューサーだってんだから、絶対に金に汚い悪い奴に決まっている。彼の事務所の書斎にはモデルガンがいくつか飾ってあったが、あの悪人面だと1つ2つは本物だと思うので、警察関係者の方はただちに向かってほしい。須藤晃に対し、そんなイメージを持たれている方もいるかもしれない。ボクも知り合いでなければそう思っているはずだ。
だけどボクはこの人が好き。出会いは去年の夏の舞台の『ドーナツ博士とGO!GO!ピクニック』の時だった。劇中の音楽を作りたいと考えていて、吉本の人間に相談したら、なんじゃかんじゃで須藤さんと会う事になった。偉い人だと聞いていたから、礼儀はキチンとしたが、最初はキッチリと偏見を持って接したと思う。須藤さんを見るボクの目がキラキラしたのは、その翌日。ボクのお願いした音楽をすでに形にしてくれて持って来てくれた。ボクと別れてすぐに作業に入られたらしい。「まずは早さで信用してもらわないとね」が口癖。相手がいるモノ作りに関してはボクも同じ事を思うので、一気に意気投合。それから次の『グッド・コマーシャル!』、そして今度の『ダイヤル38』も協力してもらっている。とにかくクリエイティブな事に前向きで、モノを作る時に見せるニタニタした厭らしい笑顔が年上ながら少年のようで可愛らしい。舘野さんに似ている。今日、仕事で一緒になったとあるファッションデザイナーの方もそんな笑顔を見せる人だった。ボクは、こういう笑顔をする人と時間を過ごしたいと思う。
須藤さんの事務所にはオモチャがたくさん並べてあり、スタッフさんも笑顔の人ばかりなので、居るだけで楽しい気持ちになる。いつからか仕事の合間に時間を潰しに行くようになった。ギターを担いで「コレ、新しく作りました」と弾いた事も何度もある。それこそ、いつまでも彼女ができないボクに助け舟を出してくれて、去年のクリスマスは一緒に過ごした。オッサンと過ごしたクリスマスは人生で初だ。そして、なるべく最後にしたい。
「ボクの人生のどこかの時間を集中して使って、この人を喜ばせなきゃいけないなぁ」と思うオッサンがボクには5人ぐらいいて、須藤さんがその一人。どこかでちゃんと返さなきゃ男として失格だ。ともかく、もはやボクが全幅の信頼を寄せている人なのだ。
その男が先日やりやがった。須藤晃がやりやがったのだ。
4月18日より赤坂ACTシアターにて行われる舞台『MISSING BOYs』。須藤さんはその舞台の監修という立場。その事は以前から聞いていて、いつだったか「西野さんに逢わせたい演出家がいるんだよ。一度舞台に遊びに来てよ」と言われ、以前、雑誌の対談で一緒になった早乙女太一君も出ていたし、純粋に、―観に行きたいな―と思っていたので、「喜んで」とお答えする。それがいつからか「ちょっと1日だけでも出てよ」と言われ、さすがに渋い顔を見せると、「セリフもないし、通行人の役で」と諭され、―それぐらいなら邪魔にならないかなぁ―と思い、お受けした。
通行人役とはいえ、舞台当日にフラッと来て、おのぼり気分で板の上に立つのは、演者さんにもスタッフさんにもお客さんにも失礼だ。ちゃんと稽古場に顔を出そうと思い、須藤さんに連れられ『MISSING BOYs』の稽古場に顔を出した。着くなりいきなり「ゲストの西野さんで~す」と全員の前で紹介され、優しい皆さまの盛大な拍手で迎えられる。もちろん「?」マークを頭に浮かべ、とりあえず挨拶。早乙女太一くんや、藤本涼さんや、やべきょうすけさん、松本まりかさん、中村あゆみさん…他にもたくさんの皆さんが優しく声をかけて下さる。通行人だぞ?なんだこりゃ?
その後、須藤さんが逢わせたいと言っていた演出の鈴木勝秀と挨拶…かと思いきや、「では、このシーンで出ていただいて舞台中央で〇〇を…」どういうワケか入念な打ち合わせが始まった。約束通り、それは確かにセリフもない役だった。ただ、ボクにとってはセリフ以上のプレッシャーがかかる仕事を託された。
―ハメられたっ!
横を見ればニヤニヤ笑う須藤晃。説明を続ける鈴木さんから最後に「やれますよね?西野さん」の一言。「はい。よろしくお願いします」と言うしかない。
自分の舞台ではない。出しゃばった真似はしたくない。ボクはこの板の上に立つ事がどれほど大変なことなのか、身を持って経験した人間でもない。それでも、いつの間にか『やる』と決まってしまった。こうなってしまった以上は、もう体当たりで示す事が、今まで稽古を積んでこられた演者さんやスタッフさん、そしてお客さんに対する礼儀だ。不貞腐れている場合ではない。こんなしがない芸人の体当たりが、力になれるかは分かりませんが、僭越ながらそのワンシーンを務めさせていただきます。『MISSING BOYs』、ボクが出るのは22日。緊張で潰れそうだ。
稽古場から帰りの車の中、「ハメましたね」と詰め寄ると、「この方が面白いでしょ?」と笑う須藤さん。そう言われてしまうと返す言葉がない。
芸人の追い込み方をよくご存知で…。
次はこちらから大変な仕事を振りますからね、須藤さん。