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2009/06/14

『ダイヤル38』のボツネタ②

昨日の『ボツネタ①』が思いのほか、お友達からの反応をたくさんいただいたので、今日はもう少しだけ続きを。本当にもうコレ以上はお見せしません。もしかすると、いつかどこかでカタチを変えてボツネタから本ネタへ出世するかもしれないからです。プロット台本を転記しただけなので(いい訳クサイ…)、誤字脱字、表現の至らなさ、変なところでの改行、は大目に見て下さいませ。

では昨日の続き、『ボツネタ②』です。どうぞ。

☆☆☆

 ピリリリ

 ズボンのポケットの中で、携帯電話が鳴った。

 電話に出るか? いや、出てはダメだ。記憶を取り戻してしまうヒントが会話の中にたくさん含まれている。画面に出た名前を見ただけでも記憶が戻ってしまう可能性がある。

 男は小刻みに震える携帯電話をポケットから取り出し、目を伏せて、真っ二つに折った。

 音がピタリと止まった。

――これでいいんだ。

 二つに折られた携帯電話は細いケーブルで繋がっている。ヌンチャクのようになった携帯電話を屋上の隅に投げ捨てた。携帯電話はボイラー室の陰まで転がった。

 とにかく記憶を取り戻すヒントを身の周りから消さなければ。遺書の内容なんて見てしまったら最期だ。死ぬ理由が書かれているだろうし、なにより、俺のフルネームが書かれているはずだ。

 男は胸ポケットから再び遺書を取り出し、二つに破って捨てた。遺書はまもなく風に吹かれて屋上の隅の壁にヘバリついた。

 とにかくここから離れよう。このビルが職場だとすれば、知り合いだらけだ。そんなのに話しかけられたら記憶が戻ってしまう。

 エレベーターを使うと人に会ってしまう。男はズキンズキンと痛みが響く頭を押さえ、非常階段を一気に駆け降りた。

、地上についた時にはYシャツが汗でビッショリと濡れていた。

男はビルの裏口から外に飛び出して、知り合いに見つからないように、うつむきながら小走りでビルから離れた。

 しばらく行くと大通りに出た。ここがどこかは分からないが、あきらかに初めて見る景色じゃない。反対側の通りにそびえ立つ金融屋のビルの傾いた看板に見覚えがあるような気がしてならない。

 ダメだ。 何も見るな! 何も聞くな!

 馴染みのある場所だとしたら、それら全てが記憶を取り戻すヒントとなってしまう。

 この街から離れよう。できるだけ遠くに行こう。

 タイミングよく走ってきたタクシーを止め、飛び乗った。

 男は目をつむり、体を小さく縮こめた。

「……お……さん、お客さん!」

 運転手の声にハッと気がつき、目を開けた。

 運転手は180度身体を反り返えらせて、訝しげな表情で話しかけてきた。

「どちらまで?」

 随分と運転手の問いかけを無視してしまったのだろう。機嫌が悪そうだ……それよりも。 どこまで行けばいいんだ? 遠くに行きたいけど「遠くまで」と言うわけにはいくまい。

 男は財布を取り出し、所持金を調べた。万札が2枚と千円札が数枚、そしてクレジットカードが確認できた。さらには運転免許証の端っこが顔を出していたので、見ないように抜き取り、2つに折り曲げ、ポケットに突っ込んだ。

二万数千円とクレジットカードを使ってなるべく遠くまで行きたいが、クレジットカードを使用するには最後に名前を書かなければいけない。

ん? そもそもクレジットカードにも名前が表記されてなかったか? これも危険だ。

使える金は二万数千円のみだ。

「ちょっと考えさせてもらっていいですか?」

 男の言葉に運転手の顔には『?』マークが浮かんだ。

 長々とタクシーに乗っていられる金銭的余裕はない。二万数千円は、その後の生活費に使わなければいけない。

なるべく金額を押さえながら、遠くに行く為の交通手段となると、電車だ。が、『近くの駅まで』と言って、その駅で知り合いに会ってしまったらどうする? 乗り継いで遠くに行くにはたくさんの駅名を目にしてしまうぞ。それがヒントになるじゃないか。電車を使うなら、いっきに遠くまで行ける方がいい。

そうだ、新幹線だ! 新幹線なら一駅でまったく知らない土地に行ける。

苦い顔を見せる運転手に男は言った。

「新大阪までお願いします」

「かしこまりました」

 ようやく運転手が前を向き、ハンドルを握った。

――ちょっと待て!

 どうして今、『新大阪』という言葉が出てきた? 

数ある新幹線の駅の中で、男の口からは『新大阪』という言葉が滑るように出てきた。

この言葉を言うのは初めてじゃない。普段、使っているのか?

運転手は何くわぬ顔で『新大阪』行きを受け止め、車を走らせている。

「どれぐらいかかりますか?」

男は恐る恐る運転手に声をかけた。

「すいてるんで、10分程度で着きますわ」

新大阪駅までの距離、そして運転手の言葉のイントネーション。

――間違いない。ここは大阪だ。

頭に記憶が一つ入ってしまった。

自殺に一歩近づいた。

☆☆☆

…というわけで、ブログで発表できる『ボツネタ』はここまで。男は自分の生活のサイクルに『大阪』が入っているという記憶を一つ取り戻してしまいました。続きを少しだけ言うと、地方に移動した後、男は、ネットカフェのパソコンで地方の格安ホテルを探している時に、ブラインドタッチができている自分に気がつきます。趣味でなのか、仕事でなのか、とにかくかなりパソコンと密着していた暮らしをしていたのだろうと知り、また一歩、自殺に近づいてしまいます。

生活する上で情報は必要不可欠だけど、知ろうとした情報が地雷というケースがあります。かといって、この時代で情報から離れる生活などできないし、身体に染み込んだ生活習慣を消しさることはできません。はたして男は迫りくる敵から逃げられるのでしょうか? それとも観念して別の方法をとるのでしょうか?

もちろん台本は最後まで書き上がっておりますので、この話のオチは決まっています。これはコメディーです。

ここ数日バタバタしていたのと、人生初の人間ドックが重なって、呑みの誘いを数件断ってしまいました。ようやく少し時間ができたので、ボクのお友達の皆様、いつでも声をかけてくださいませ。よく冷えた『よなよなエール』と、『ボツネタ』のとってもチャーミングなオチを用意して待っております。

とりあえず今日は大阪です。