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2009/07/10

願いは叶う

29歳。シコシコと制作活動。『Zip&Candy』、完成までの道のり険し。はやく世間様にお披露目したいものだ。

20歳。『はねるのトびら』が始まって右も左もわからなかった頃、お客さんから一通の手紙をいただいた。番組について書かれたもので、「西野は芸人のクセに海に落ちないし、ブリーフもはかない。楽して、カッコつけて、オイシイ仕事ばかり。芸人ならば体を張れ」というもの。もちろん冗談だと思って読み進めていくと、どうやらそうでもない様子。『海に落ちない=オイシイ』の図式になってしまう意味が分からなくて、「ありゃりゃ…」と困ってしまって、放送を重ねるたびに、こういう人が少なくないと知り、さらに困った。

だけど考えてみれば、ボク自身も幼稚園や小学校低学年の頃は、いかりや長介サンをはじめ、そういう場所に立つ人達に対して、同じようなことを思っていたなぁ、と。

白いモノをより白く見せるためには、隣に黒を置けばいい。クリーム色じゃダメ。コントラストが弱くなる。梶原の相方であり、『はねるのトびら』のあの場所にいる以上、ボクは黒くなきゃいけない。だけど、知ったような口をきく人達を別のアプローチで黙らせてやろうという気持ちがどこかにあった。

それもキッカケの一つで、今日の活動に至るわけだけれど、この活動をする以上、黒色は弱まっていく。やっぱり「海に落ちるのを本気で嫌がる人」「ブリーフをはきたがらない人」であって、「アイツ芸人のクセに…」と言われることを受け入れている人の方が、「黒」としては一枚も二枚も上手だ。いかりやサンや矢部サンの強さってソコだろうな、と思う。

ただ、環境が少し違うのは、総合演出が番組開始当初から口を酸っぱくすいて言っていたことで、『はねるのトびら』は一コンビだけを全面に押し出すという作りをせず、「横並びの5組でいきましょう」ということで始まった。例えば、押し出される一コンビだったら、こういう活動もしていなかっただろうな、とも思う。どちらが良かったのかは分からないけど、ただ、今はとても楽しい。

合気道のように人生を生きられれば良いと思うわけです(合気道をよく知らないけど…)。どうやら自分はコッチに流された。その流れに逆らうのではなくて、自分がその方向に流れたのであれば、その方向に流れる力を利用して、ひっくり返す。「今月、スケジュール表が真っ白なんです」と嘆く後輩を見ていつも思うのです。それは大チャンスだぜ。

…と、ここまで書いたところでマンションの火災警報が鳴る!

「火事です!避難して下さい!」とアナウンスが部屋に流れ、一刻を争う事態に。

まず考えたのが絵本の原画。それだけは守らなければ。『Zip&Candy』の原画は数枚、これは持ち出せるが、『Dr.インクの星空キネマ』の原画は80枚近く。これをまとめていたら自分もろとも『Zip&Candy』も炎にくるまれる。こいつには未来がある。泣く泣く、『Dr.インクの星空キネマ』を見捨て、玄関を飛び出す。非常階段に出れば、上の階からもたくさんの人、人、人。その人の流れに乗って、『Zip&Candy』の原画を抱きしめたお笑い芸人も下へ下へと。そして降りきった時に知る。

どうやら新しく引っ越してこられた方が間違って非常ボタンを押してしまったらしい。

安堵の表情を浮かべるマンションの住人。まもなく視線がボクに集まる。「キングコング西野さんですよね?このマンションに住んでたんですか?あれ?それは何ですか?絵本の原画?ほぉ~。ちなみにどんな話なんですかぁ?」

かくして、『Zip&Candy』は衝撃的なカタチで世間にバレてしまったのである。くしくも冒頭の文章に繋がったわけだ。

部屋に戻る非常階段で住人による深夜0時前のプチ撮影会が開かれたことは言うまでもない。

2009.07.10 『ろくでもない夜』