玄関で靴を脱いでいる時、傘立てに刺さった1本の傘が目に入ってきました。舞台『ダイヤル38』の小道具として購入したなんでもない黒い傘。他と違うのは、この傘、雨に濡れたことが一度もない。雨が降らない舞台で使用されたっきり、プライベートで肝心な時にいつも手元にいないのだ。昨日の夕立なんて活躍の場であったろうに、この傘ときたら大人しく玄関にいたわけだ。この傘が役に立つ日などくるのだろうか、とボクはしげしげと傘を眺めたのでありました。
ところで皆さんは世界がどの順序で出来あがっていったのかを考えたことはありますか?
噂では、隕石の衝突で爆発を繰り返し、雲ができて雨が降って……と聞きますが、日常からあまりにも離れすぎていて、いまいちピンときません。
では逆に、皆さんの日常に密着しているモノ、例えば『傘』。傘が世界の始まりだったらどうでしょう?
中央部分を持ち、ワンタッチで、瞬時にして屋根が広がる素敵な道具を作りました。
アダムはこの道具に『傘』という名前をつけました。
アダムはさっそくイヴに見せましたが、喜んでもらえるどころか、イヴは手に取ろう
ともしませんでした。イヴは言いました、「コレは一体何に使うものなんだい?」
―なるほど、使い道さえ作ればいいのか。
アダムは傘の使い道を考えました。手さげバッグのように使ってみましたが、モノは
落ちる、すれ違う時にぶつかる、で踏んだり蹴ったり。
そんなある時、アダムの頭上にイガグリが落ちてきました。だけどアダムは傘をさし
ていたのでイガグリから頭を守ることができました。「こいつはいい!」
アダムは傘の使い道を作る為に空からモノを降らせようと考えました。だけど、ソレ
をイガグリにしてしまうと地上に落ちた後、踏んでしまっては大変です。なので地上
に落ちた後も安全なモノにしようと、水を降らせることにしました。
アダムは空から降らせる水に、『雨』という名前をつけました。
こうして世界に雨が降りました。
雨をたくさん降らせたおかげで、世界の外れには大きな大きな水たまりができまし
た。
アダムはこの大きな大きな水たまりに、『海』という名前をつけました。
こうして世界に海ができました。
しばらくすると海からたくさんの生き物が生まれました。『プランクトン』に『ヒト
デ』に『クジラ』、アダムはそれぞれに名前をつけていきました。その中にアダムが
『クラゲ』と名前をつけた生き物がいました。クラゲは生まれながらにして傘を身に
つけていました。不思議に思ったアダムはクラゲに訊ねました。
「ねえねえ、クラゲ君。キミはどうして傘を持っているんだい?海には雨もイガグリ
も降らないだろう?」
クラゲは答えました、「この傘は波の流れに乗ってプカプカ浮く為に使っています」
「なるほど傘にはそういう使い道もあるのかい。ありがとうクラゲ君。」
それからアダムは傘を使ってプカプカ空に浮かぼうと考え、波のように空気を流しま
した。
アダムは流れる空気に『風』という名前をつけました。
こうして世界に風が吹きました。
傘を握ったアダムとイヴは風邪に乗って空を飛びました。するとその姿を真似て、風
に乗って空を飛ぼうとする生き物が現れました。アダムはその生き物に『鳥』という
名前をつけました。鳥が少しやっかいなのは、空から地上に向かってウンチを落とす
事です。だけど傘があれば大丈夫、鳥のウンチも防ぐ事ができます。
アダムは地上に立ち傘をさし、鳥のウンチを待ちましたが、思ったように鳥はウンチ
を落としてきてくれません。これでは傘が使えません。
なのでウンチが落ちるまでの間に雨を降らすことにしましたが、雨が降ると今度は鳥
が空を飛んでくれませんでした。アダムは雨を降らすのを止め、鳥のウンチを待つ間
に他のモノを降らせようと考えました。
そしてアダムは強い光を降らせようと考えました。
強い光くらいなら鳥も飛んでくれるし、強い光をしのぐ為にイヴも傘を使ってくれる
だろうという算段です。
そうしてアダムは空に大きな大きな火の玉を作りました。
アダムはその大きな大きな日の玉に『太陽』という名前をつけました。
こうして世界に太陽が輝きました。
こうして一本の傘から、今の世界は生まれましたとさ。
~パラソルワールド~
…もちろん嘘です。だけど、こんなストーリーをひとつでも作ってやると、今までよりも少しだけ傘のことが愛おしくなります。自分の身の回りのモノにそうやって、すこし物語を作ってやって、愛着を湧かせてみるというのも悪いもんじゃありません。
作業に疲れて一休憩する時はいつも作業机の脇に置いあるギターをポロロンと鳴らします。とはいっても、唄はヘタだし、人の曲も弾けないので、自分で作った唄をうたいます。自分で作った唄だから、どう弾こうが唄おうが自分が正解です。音痴に落ち込むこともありません。作る唄にはまさかロマンチックな曲はなく、坂田師匠の事を想った唄や、マカロニ怪盗団という舞台に登場したキャラクターの唄といった、そういうどうしようもないモノ達ですが、それらを奏でる時に、知人からプレゼントしていただいたギターのことがより一層愛おしくなるのです。
8月9日がやってきました。今日は夏のお祭り、『ろくでもない唄』です。作業合間に作った唄が活躍する珍しい日です。
2009.08.09 新宿LOFT 『ろくでもない唄』