生まれもった天性のこの白い肌をそんじょそこらのグレーの肌の三流ハトポッポどもに見せつけてやろうと、日比谷公園を威風堂々歩いていたら、まあ見事にとっ捕まって、ただいまマジシャンの帽子の中でスタンバイしている。
私のような白い肌はマジシャンにとってはカッコウの的だった。なにせ膨張色だ。帽子を脱いだ時に大きく派手に見えるからだ。まさかこの白い肌が裏目に出るとは。
コイツのショーはつまらない。ただ黙々とマジックを積み重ねていくだけ。もっと要所要所で軽く笑えるユーモアを入れなければ客は離れていってしまう。まったく分かっていない。
マジシャンの帽子の中は狭い。そして臭い。コイツ、おそらく昨日お風呂に入っていない。そして臭い理由はもう一つある。帽子から飛び出す前に、私の人生を狂わせた腹いせにと、コイツの頭の上にフンをしてやったのだが、段取りが変わったのか、はたまた段取りを忘れたのか、なかなか帽子を脱ぎやがらない。そしてこの密閉空間だ。臭いが充満している。さっきからやたらと眠気に襲われる。気絶しそうだ。
もちろん死ぬわけにはいかない。なぜなら私は平和の象徴だからだ。マジシャンが帽子を脱いで、客の視聴率がもっとも集中している場面で、白いハトの死骸を見せつけるわけにはいくまい。末代までの恥。グレーの肌の三流ハトポッポどもがでかい顔をするに違いない。
大体、どうして私はこのような目に遭っているんだ?
思えば、自衛艦『さざなみ』の出港イベントのオープニングセレモニーに選ばれなかったのが、そもそもの始まり。
自分の美貌には自信があった。だがその自信が鼻につくといけない、そう考えた私は、エサとなるようなモノを自ら地面に落して、「それを食べに来た白いハト」を演出したのだ。その場所が偶然、出港イベント用に白いハトを提供する会社の玄関前だった、というとっても自然な演出だ。それでも会社の人間に「自ら来やがった」と疑われたならば、「お姉ちゃんが勝手に…」作戦でも使ってやろうと、次の手も考えていた。そうして朝から晩までウロついてみたが、箸にも棒にも引っかからなかった。そこで知った。
あの手のハトは幼少の頃より、それ用に英才教育をされているというのだ。私のような野バトは、何の信用もないのである。そりゃそうだ。毎日がサバイバルで、木の間にいる変な虫ばかり食べて育った私には、協調性の欠片もない。号令で揃って飛び立つのは難しい。
それで言えば、このマジシャンの怠慢さにはほとほと飽きれる。マジックに使われるハトもきっと幼少期より共に過ごし、キチンとした教育が施されているハズなのだ。それがどうだ?日比谷公園を歩いている成人ハトを大きな網でとっ捕まえて、その翌日が今日である。もしや、急遽いなくなった他のハトの代役として使われているのか?それはそれで腹が立つ。
話を戻そう。
自衛艦『さざなみ』のオープニングセレモニーを遠くから見ることとなった私は、それでもグレずに活動を続け、話題作りに奔走した。銀座のオフィス街に建つ時計台に行き、正午ちょうどに「ホロッホー」と鳴き、リアル鳩時計をやってみせた。メディアがそれを面白がり、一時期は「ポッポちゃん」として世間の話題もさらった。
ただ、世間は勝手だ。盛り上がるのが早ければ、飽きるのも早い。半年もすれば「ポッポちゃん」の仕事は、地方から来たおのぼりさんの写メールの被写体が関の山。まもなく私は銀座を去っ…ダメだ、臭い!
もう、いよいよ限界だ。自分のフンの臭いがこれほどまでとは。どうしてコイツは帽子を脱がない?確実に私の存在を忘れている。こうなったら気づかせるしかない。頭頂部をクチバシで突っつくか?いや、ダメだ。そんなことをして、頭から血が吹きだしたらどうする?全身血だらけのハトをお披露目するハメになるぞ。街頭TVでチラッと観たぞ。ウサギが青かっただの、何だので、今、世間はマンモス大騒ぎだ。赤いハトなんか出た時には大パニックだ。
突っつくのはやめよう。うむ、うむ。そうだ、毛を抜いてやろう。これなら、血も出ないし、さすがに毛を抜かれればその痛みで気がつくだろう。
私はクチバシを使い、男の毛を5、6本挟み、目一杯の力で引き抜いた。が、「うん」とも「すん」とも言わない。まったく何の反応もない。
どういうことだ?どうして、毛を抜かれたのに気がつかないんだ?痛みは確実にあるはず……あ!…なるほど、そういうことか。…コイツ、「ズラ」だ。
はあ、なるほど。そういうことですか。これはイイことを思いついたぞ。私が外に飛び立つ時にコイツのズラも一緒に持っていってやろう。最高の見せ場で、最高にみっともない姿をあらわにしてやるぜ。それもこれも私をここに閉じ込めた罰だ。
ちょうど、その時だった。「コンコン」帽子を軽く2度叩く音、帽子を脱ぐ合図だ。
サラバ、糞マジシャン。ようこそ、つるっぱげマジシャン。
視界が瞬時にして明るくなった。私は爪に全ての力を入れ、男の頭皮を握って飛び立った。男の頭皮はそのままついてきた。やっぱりだ。マジシャンのズラを持って会場の天井をグルグルと飛び回ってやった。
地響きのような笑い声が聞こえてきた。ざまあみろだ。私の人生を狂わせた罰、恥をさらして生きてゆくがいい。
続いて、横なぐりの豪雨のような拍手が聞こえてきた。うん?なんだ?歓声まで上がっているぞ。私は天井のシャンデリアにとまり、ステージ上のマジシャンを観た。
マジシャンはその両手を大きく広げ、アインシュタイン博士よろしく、舌をお茶目にぺロッと出しているではないか。ズラを持っていかれたことを、すっかり自虐ネタにしてやがる。結果的にアイツに新ネタをあげてしまったではないか。まあ、でも、客は喜んでるし、面白いからいいか。
舞台袖にいるマネージャーだけだぜ。豆鉄砲を食らったような顔をしてるのは。
2009.09.22 北沢タウンホール 『Made in KingKong』 ゲスト:リットン調査団 FUJIWARA