「Dr.インクの星空キネマ」には、世界中の人々が眠った時に見る夢の脚本を書くDr.インクという大忙しの脚本家がいました。
そして、その脚本を世界中の人々のもとへと配達するマルタ・サンポーニャという配達人がいました。
今夜お話しするのは「Dr.インクの星空キネマ」よりもずいぶんと古い、Dr.インクとマルタ・サンポーニャの出逢いの物語。
『マルタ・サンポーニャと夢工場の夜明け』
「あの音はなんだい?」
「キミにも聞こえるかい? 誰かがとてもはやいスピードで手を動かしているよ」
「腕が10本もあるわ」
サンポーニャ達が騒ぎ始めました。サンポーニャ達は生まれながら目が見えませんでしたが、かわりに耳がとてもよく発達していたので、呼吸の音で人を判断し、風が流れる音でモノの場所を判断することができました。サンポーニャ達に聞こえてきたその「音」は、村の外の、そのまた遠くで鳴っています。
「調べにいくかい?」
「いいえ、私達は村から出てはいけない」
「誰が決めた?」
「千年前から村で決まっているわ」
「だけど、あの音は誰かを必要としているよ」
突然鳴り始めた「音」に、村中大騒ぎ。だけどサンポーニャ達はこの村を出てはいけない決まりとなっておりました。外の世界には、音だけでは知ることのできないモノがたくさんあったし、音だけで生きるサンポーニャ達を笑う人がたくさんいたからです。それからというものサンポーニャ達は村の外に出ようとはしませんでした。いつしかそれが村の決まりとなって、サンポーニャ達はこの村の中だけで生活をしていました。しかし、その「音」は鳴り続け、サンポーニャ達の興味を誘います。
ある日、一匹のサンポーニャがこっそり村を抜け出しました。目的はもちろん、その「音」の正体を調べる為です。抜け出したサンポーニャは音の鳴る方へ足を進めました。
村の外は新しい発見だらけの世界でした。広い範囲で風の音がサワサワという音に変わりました。きっと、村にある木とは比べ物にならないほどの大きな大きな木が、そこにあるのでしょう。村には存在しない4つの羽を鳴らす虫や、流れない川もありました。きっと、それぞれに名前があるのでしょう。
村からずいぶんと歩いたところで、一匹の生き物が声をかけてきました。
「おや? この辺りでは見ない顔だねえ、キミはいったい誰だい?」
「私は、マルタ・サンポーニャ。あなたはだあれ?」
「ワシは世界を旅する商人だよ」
「ショウニン? ヘンな名前ね。それよりも、あなたは世界を旅してるの? きっといろんな事を知ってるんだね」
「まあ、大体のことはね。ところで、キミは何をしてるのかね?」
「音の正体を探してるの」
「音?」
「聞こえてないの? この音」
「はて? 今も鳴っているかい? ワシには聞こえないね。きっとキミはとても耳がいいんだね」
「まあね」
世界を旅する商人に誉められて、サンポーニャは少し嬉しくなりました。
「まあ、くれぐれも気をつけて。はやくしないと夜になるよ」
「ヨル? なんだい、そりゃ?」
「あらあらサンポーニャや、キミは夜を知らないのかい?」
「私の村には“ヨル”なんてないわ」
「いいや、夜は世界中にある。‥そうか」
商人は、目線が少しだけズレているサンポーニャを見て事情を察しました。
「ヨル? ヨルって何?」
無いモノを知ることはできません。サンポーニャは夜を知りませんでした。
「聞かせておくれサンポーニャ、キミは眠るのかい?」
「疲れたら眠るわ」
「その時が“夜“だよ」
「どうしてショウニンはヨルを知っているの? だって、ヨルの時は眠っているんでしょ?」
「頑張って起きている夜もある」
「どうして頑張って起きる必要があるの?」
「星を楽しむためだよ」
「ホシ? それは一体なあに?」
「おや、星も知らないのかい? 星は、嬉しさや悲しさを教えてくれるものだよ」
「音楽のようなもの?」
「近いね。だけど音は鳴らさない」
「音を鳴らさない? じゃあ、太陽のように熱があるのかい?」
「熱もないね」
「まっておくれ。そんなものをどうやって知るの?」
「見るんだよ」
「ミル? ミルって何?」
「“見る”を説明するのは少し難しいね。その答えはきっと、キミが探している音の正体が教えてくれるんじゃないかな」
「それなら、よけいに音の正体を探さなくちゃ。私はホシをミルがしたい」
「それを言うなら“見たい”だね」と商人が優しく微笑みます。「太陽が空を焦がしたら夜になる。星はその時に現れるよ。かわいいマルタ・サンポーニャや、キミが星と出会えることを遠くから願っているよ」
「ありがとう、ショウニン」
そう言って、商人とは別れました。まだまだたくさんいろんな事を教えてくれそうでした。どうやら世界にはサンポーニャの知らないことが他にもたくさんあるようです。サンポーニャは再び足を進めました。「行こう行こう、音のする方へ」
山を越えて、川を越えて、ずいぶんと肌寒くなりました。太陽が山へ帰ってしまったのでしょう。少し眠くもなってきましたし、もうすぐ“ヨル”がやってくるのでしょうか? そうすれば“ホシ“が現れるはずです。しかし、ホシは音を鳴らしません。ホシは聴くことができません。ミルのです。ホシはどんなだ? ミルはどんなだ? サンポーニャはホシが見たくてたまりませんでした。ショウニンが言ったように、音の正体は“ミル”を教えてくれるのでしょうか。
3日ほど歩くと、音の正体に近づきました。目の前で風がぶつかっています。そこに小さな家があるようです。音はどうやら、その家の中から聞こえてきます。「あそこだ」
サンポーニャはその小さな家の玄関を開けました。
「勝ってに入ってゴメンよ。私はマルタ・サンポーニャ。キミは誰だい?」
黙々と、ものすごいスピードで腕を動かす生き物がいます。そして、やはり腕は2本ではありませんでした。
「‥‥」
「あらら? キミは言葉を持たないのかい?」
「Dr.インク」
「ドクターインク? それがキミの名前かい?」
「‥‥」
「そうか。変わった名前だね。それよりもキミはここで何をしてるの?」
「夢を作っている」
「ユメ? なんだいそりゃ?」
「知らなくて当然だ。まだ世界には無い」
「世界には無いモノを作っているのかい?」
「世界には無いから作っているんだ」
「ユメとはなんだい?」
「夢は、見るものだ」
「ミル‥、私は“ミル”を知らない」
そこでDr.インクの手が止まりました。Dr.インクは、サンポーニャの顔をじっと見て、事情を察しました。
「私はミルができるか? 私はホシを見たい」
「わかった。ボクがキミに星を見せてあげよう」
「本当かい? いったいどうやって?」
Dr.インクは背中に山積みとなった原稿を一枚取り出して言いました。「夢の中でさ」
「ユメはミルものなんだろ? 私はユメをミルことができるのかい?」
「夢を見ることに条件なんていらないよ」
風に揺れた草が足を優しく撫でます。サンポーニャは地平の果てまで続く草原の中に立っていました。鳴っている音と言えば、風の音と、それに吹かれた草の囁きぐらい。どれだけ耳をすましても、それ以外に何の音もしませんでしたが、顔を上げると、空一面に散らばった光り輝く小石が千以上浮かんでいました。それらは音を鳴らしていません。しかし、その存在を知ることができました。サンポーニャは見ているのです。感動で声が出ませんでした。
空に浮かんだ輝く小石を見ていると、勝手に顔が綻んだり、勝手に涙が流れてきました。音楽にとてもよく似ています。きっと、あれが「ホシ」なのでしょう。サンポーニャは草原に仰向けになって寝転んで、いつまでも「ホシ」を眺めていました。それは春のように、とても心地よい時間でした。
「おはよう、サンポーニャ」
気がつけば、サンポーニャは家の中にいました。いつの間にか、疲れて眠ってしまったようでした。さっきまで広がっていた草原はどこにもありません。
「星は綺麗だったかい?」Dr.インクがイタズラな笑みを浮かべて、サンポーニャに訊ねました。
「ありがとう、ドクターインク。どうやらキミの仕業だね。私は星を観ることができたよ。そしてあれがユメの中なんだね」
「ああ、そうだ。夢は楽しいだろ?」
「そうね、夢の中にいるのは本当に楽しい。もっとたくさんの人が夢を見るべきだわ」
「夢は人が眠った時に見せようと思う。だけどボクは、人がどこにいて、どこで眠るのかがわからない」
「そんなの簡単よ。『おやすみなさい』が聞こえた方に人が眠っているんだよ」
「サンポーニャ、キミはその声が聞こえるのか?」
「たやすいヨ」
「ボクの描く夢を、皆のところまで運んでくれないか?」
「また、星の夢を描いてくれる?」
「たやすいネ」
「よしきた。どんどん夢を描いてちょうだい。私が世界中に配達するよ」
「忙しくなりそうだ。世界中の人々が見る夢、はたして間に合うかな?」
「そんなの簡単よ。いける、と思えばいいんだよ」
「そうだね。よし、夢を始めよう」
~おしまい~
『マルタ・サンポーニャと夢工場の夜明け』 にしのあきひろ
2010年1/10(日)1/11(月)1/12(火) 六行会ホール 『クソろくでもない夜』
1月10日(日) ※順不同
西野亮廣(キングコング)、イシバシハザマ、ふくろとじ、川口清之(ロシアンモンキー)、房野史典(ブロードキャスト)
1月11日(月) ※順不同
西野亮廣(キングコング)、イシバシハザマ、ふくろとじ、ロシアンモンキー、ブロードキャスト、平成ノブシコブシ、こりゃめでてーな、若月、スリムクラブ、ゆったり感、5GAP
1月12日(火) ※順不同
西野亮廣(キングコング)、イシバシハザマ、川口清之(ロシアンモンキー)、房野史典(ブロードキャスト)、ツネ(2700)、片岡正徳(オオカミ少年)、斉藤司(トレンディエンジェル)、玉城泰拙(セブンbyセブン)、井下好井、ササキりな、江崎隆文(ゆったり感)、エハラマサヒロ、出雲阿国、吉富Aボタン、若月徹(若月)、MASA(ヨコハマナンバー)、あっぱれコイズミ、堤下敦(インパルス)
※出演者は変更、追加する可能性があります。