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2009/12/25

マルタ・サンポーニャと夢工場の夜明け

「Dr.インクの星空キネマ」には、世界中の人々が眠った時に見る夢の脚本を書くDr.インクという大忙しの脚本家がいました。

そして、その脚本を世界中の人々のもとへと配達するマルタ・サンポーニャという配達人がいました。

今夜お話しするのは「Dr.インクの星空キネマ」よりもずいぶんと古い、Dr.インクとマルタ・サンポーニャの出逢いの物語。

『マルタ・サンポーニャと夢工場の夜明け』

「あの音はなんだい?」

「キミにも聞こえるかい? 誰かがとてもはやいスピードで手を動かしているよ」

「腕が10本もあるわ」

サンポーニャ達が騒ぎ始めました。サンポーニャ達は生まれながら目が見えませんでしたが、かわりに耳がとてもよく発達していたので、呼吸の音で人を判断し、風が流れる音でモノの場所を判断することができました。サンポーニャ達に聞こえてきたその「音」は、村の外の、そのまた遠くで鳴っています。

「調べにいくかい?」

「いいえ、私達は村から出てはいけない」

「誰が決めた?」

「千年前から村で決まっているわ」

「だけど、あの音は誰かを必要としているよ」

突然鳴り始めた「音」に、村中大騒ぎ。だけどサンポーニャ達はこの村を出てはいけない決まりとなっておりました。外の世界には、音だけでは知ることのできないモノがたくさんあったし、音だけで生きるサンポーニャ達を笑う人がたくさんいたからです。それからというものサンポーニャ達は村の外に出ようとはしませんでした。いつしかそれが村の決まりとなって、サンポーニャ達はこの村の中だけで生活をしていました。しかし、その「音」は鳴り続け、サンポーニャ達の興味を誘います。

ある日、一匹のサンポーニャがこっそり村を抜け出しました。目的はもちろん、その「音」の正体を調べる為です。抜け出したサンポーニャは音の鳴る方へ足を進めました。

村の外は新しい発見だらけの世界でした。広い範囲で風の音がサワサワという音に変わりました。きっと、村にある木とは比べ物にならないほどの大きな大きな木が、そこにあるのでしょう。村には存在しない4つの羽を鳴らす虫や、流れない川もありました。きっと、それぞれに名前があるのでしょう。

村からずいぶんと歩いたところで、一匹の生き物が声をかけてきました。

「おや? この辺りでは見ない顔だねえ、キミはいったい誰だい?」

「私は、マルタ・サンポーニャ。あなたはだあれ?」

「ワシは世界を旅する商人だよ」

「ショウニン? ヘンな名前ね。それよりも、あなたは世界を旅してるの? きっといろんな事を知ってるんだね」

「まあ、大体のことはね。ところで、キミは何をしてるのかね?」

「音の正体を探してるの」

「音?」

「聞こえてないの? この音」

「はて? 今も鳴っているかい? ワシには聞こえないね。きっとキミはとても耳がいいんだね」

「まあね」

世界を旅する商人に誉められて、サンポーニャは少し嬉しくなりました。

「まあ、くれぐれも気をつけて。はやくしないと夜になるよ」

「ヨル? なんだい、そりゃ?」

「あらあらサンポーニャや、キミは夜を知らないのかい?」

「私の村には“ヨル”なんてないわ」

「いいや、夜は世界中にある。‥そうか」

商人は、目線が少しだけズレているサンポーニャを見て事情を察しました。

「ヨル? ヨルって何?」

無いモノを知ることはできません。サンポーニャは夜を知りませんでした。

「聞かせておくれサンポーニャ、キミは眠るのかい?」

「疲れたら眠るわ」

「その時が“夜“だよ」

「どうしてショウニンはヨルを知っているの? だって、ヨルの時は眠っているんでしょ?」

「頑張って起きている夜もある」

「どうして頑張って起きる必要があるの?」

「星を楽しむためだよ」

「ホシ? それは一体なあに?」

「おや、星も知らないのかい? 星は、嬉しさや悲しさを教えてくれるものだよ」

「音楽のようなもの?」

「近いね。だけど音は鳴らさない」

「音を鳴らさない? じゃあ、太陽のように熱があるのかい?」

「熱もないね」

「まっておくれ。そんなものをどうやって知るの?」

「見るんだよ」

「ミル? ミルって何?」

「“見る”を説明するのは少し難しいね。その答えはきっと、キミが探している音の正体が教えてくれるんじゃないかな」

「それなら、よけいに音の正体を探さなくちゃ。私はホシをミルがしたい」

「それを言うなら“見たい”だね」と商人が優しく微笑みます。「太陽が空を焦がしたら夜になる。星はその時に現れるよ。かわいいマルタ・サンポーニャや、キミが星と出会えることを遠くから願っているよ」

「ありがとう、ショウニン」

そう言って、商人とは別れました。まだまだたくさんいろんな事を教えてくれそうでした。どうやら世界にはサンポーニャの知らないことが他にもたくさんあるようです。サンポーニャは再び足を進めました。「行こう行こう、音のする方へ」

山を越えて、川を越えて、ずいぶんと肌寒くなりました。太陽が山へ帰ってしまったのでしょう。少し眠くもなってきましたし、もうすぐ“ヨル”がやってくるのでしょうか? そうすれば“ホシ“が現れるはずです。しかし、ホシは音を鳴らしません。ホシは聴くことができません。ミルのです。ホシはどんなだ? ミルはどんなだ? サンポーニャはホシが見たくてたまりませんでした。ショウニンが言ったように、音の正体は“ミル”を教えてくれるのでしょうか。

3日ほど歩くと、音の正体に近づきました。目の前で風がぶつかっています。そこに小さな家があるようです。音はどうやら、その家の中から聞こえてきます。「あそこだ」

サンポーニャはその小さな家の玄関を開けました。

「勝ってに入ってゴメンよ。私はマルタ・サンポーニャ。キミは誰だい?」

黙々と、ものすごいスピードで腕を動かす生き物がいます。そして、やはり腕は2本ではありませんでした。

「‥‥」

「あらら? キミは言葉を持たないのかい?」

「Dr.インク」

「ドクターインク? それがキミの名前かい?」

「‥‥」

「そうか。変わった名前だね。それよりもキミはここで何をしてるの?」

「夢を作っている」

「ユメ? なんだいそりゃ?」

「知らなくて当然だ。まだ世界には無い」

「世界には無いモノを作っているのかい?」

「世界には無いから作っているんだ」

「ユメとはなんだい?」

「夢は、見るものだ」

「ミル‥、私は“ミル”を知らない」

そこでDr.インクの手が止まりました。Dr.インクは、サンポーニャの顔をじっと見て、事情を察しました。

「私はミルができるか? 私はホシを見たい」

「わかった。ボクがキミに星を見せてあげよう」

「本当かい? いったいどうやって?」

Dr.インクは背中に山積みとなった原稿を一枚取り出して言いました。「夢の中でさ」

「ユメはミルものなんだろ? 私はユメをミルことができるのかい?」

「夢を見ることに条件なんていらないよ」

風に揺れた草が足を優しく撫でます。サンポーニャは地平の果てまで続く草原の中に立っていました。鳴っている音と言えば、風の音と、それに吹かれた草の囁きぐらい。どれだけ耳をすましても、それ以外に何の音もしませんでしたが、顔を上げると、空一面に散らばった光り輝く小石が千以上浮かんでいました。それらは音を鳴らしていません。しかし、その存在を知ることができました。サンポーニャは見ているのです。感動で声が出ませんでした。

空に浮かんだ輝く小石を見ていると、勝手に顔が綻んだり、勝手に涙が流れてきました。音楽にとてもよく似ています。きっと、あれが「ホシ」なのでしょう。サンポーニャは草原に仰向けになって寝転んで、いつまでも「ホシ」を眺めていました。それは春のように、とても心地よい時間でした。

「おはよう、サンポーニャ」

気がつけば、サンポーニャは家の中にいました。いつの間にか、疲れて眠ってしまったようでした。さっきまで広がっていた草原はどこにもありません。

「星は綺麗だったかい?」Dr.インクがイタズラな笑みを浮かべて、サンポーニャに訊ねました。

「ありがとう、ドクターインク。どうやらキミの仕業だね。私は星を観ることができたよ。そしてあれがユメの中なんだね」

「ああ、そうだ。夢は楽しいだろ?」

「そうね、夢の中にいるのは本当に楽しい。もっとたくさんの人が夢を見るべきだわ」

「夢は人が眠った時に見せようと思う。だけどボクは、人がどこにいて、どこで眠るのかがわからない」

「そんなの簡単よ。『おやすみなさい』が聞こえた方に人が眠っているんだよ」

「サンポーニャ、キミはその声が聞こえるのか?」

「たやすいヨ」

「ボクの描く夢を、皆のところまで運んでくれないか?」

「また、星の夢を描いてくれる?」

「たやすいネ」

「よしきた。どんどん夢を描いてちょうだい。私が世界中に配達するよ」

「忙しくなりそうだ。世界中の人々が見る夢、はたして間に合うかな?」

「そんなの簡単よ。いける、と思えばいいんだよ」

「そうだね。よし、夢を始めよう」

~おしまい~

『マルタ・サンポーニャと夢工場の夜明け』 にしのあきひろ

2010年1/10(日)1/11(月)1/12(火) 六行会ホール 『クソろくでもない夜』

1月10日(日) ※順不同

西野亮廣(キングコング)、イシバシハザマ、ふくろとじ、川口清之(ロシアンモンキー)、房野史典(ブロードキャスト)

1月11日(月) ※順不同

西野亮廣(キングコング)、イシバシハザマ、ふくろとじ、ロシアンモンキー、ブロードキャスト、平成ノブシコブシ、こりゃめでてーな、若月、スリムクラブ、ゆったり感、5GAP

1月12日(火) ※順不同

西野亮廣(キングコング)、イシバシハザマ、川口清之(ロシアンモンキー)、房野史典(ブロードキャスト)、ツネ(2700)、片岡正徳(オオカミ少年)、斉藤司(トレンディエンジェル)、玉城泰拙(セブンbyセブン)、井下好井、ササキりな、江崎隆文(ゆったり感)、エハラマサヒロ、出雲阿国、吉富Aボタン、若月徹(若月)、MASA(ヨコハマナンバー)、あっぱれコイズミ、堤下敦(インパルス)

※出演者は変更、追加する可能性があります。