2010/02/18
梶原にメール
好きな車はムスタングで、好きな女の子はアメリ。好きなブランドはgrandcanyonで、好きな街はベネチアで、すきな酒は『よなよなエール』で、嫌いな人間は梶原となる。
嫌いな理由を挙げていけば限がないが、一つに絞るとするならば、「口まわりが汚い」ということになってくる。飯の食べ方が汚いし、とにかく歯が汚い。これは冗談でも何でもなく、知りあって10年で、奴が歯を磨いているところを見たことがない。
そんな汚い奴であろうと、コンビを組んでしまったので、明日も明後日も一緒の時間を過ごさねばならないのだ。今は、夏の全国ツアーに向けて少しずつ動いている。
今日、ボクは自宅で漫才を作っていた。世の中に存在しない曲をイジっていくネタなので、まずはギターを鳴らして、奇妙奇天烈な曲を作った。明日、仕事場で梶原にネタの内容を伝える予定だったが、曲がオリジナルのため、現場で伝えるとなると、梶原相手に何度か唄わなければいけなくなる。相方にギターの弾き語りを何度も。それを他の人に見られたらどうするんだ? だけど、覚えてもらうには何度も唄うほかない。まいったぞ。
その時、ひらめいた。携帯電話のムービーで唄を撮影して、それをメールに添付して梶原に送ろう。明日、会うまでには覚えておいてもらえれば、すんなりネタ合わせができるし、相方を相手に弾き語りをしている姿を見られる心配もない。
かくして、梶原にムービーを送る作戦が始まった。ギターの音とボクの声がちょうどいいバランスで録音できるよう、携帯電話を適当な場所にセットして、録音ボタンを押そうとした。が、その指が止まった。
恥ずかしい。とってもとっても恥ずかしいのだ。
自作の曲を自分でム―ビーで撮り、さらに相方に送るだと? 童貞をこじらせて間違った告白をしてしまう中学生よりも重症だ。西野亮廣が熱唱しているムービーが添付されたメールを受け取った梶原は、一体何を思えばいいんだ。互いに地獄じゃないか。なんてこったい。
しかし、方法は二つしかない。ムービーのメールを撮っておくるか、現場で梶原に弾き語りをするかだ。どっちも嫌だ。が、しかたがない、ここは消去法なのだ。
いろんな感情を押し殺し、ボクは録音ボタンを押し、唄った。本当に恥ずかしかった。
そして、「明日、このネタを合わせよう」という文章に添付し、送った。リスクが大きすぎる。だけどボクは勇気を振り絞った。漫才師として生きていく上で、夏の全国ツアーを成功させる上で、しかたのない、苦汁の選択をしたのだ。恥を捨て、相方に熱唱ムービーを送ることこそが、今のボクの覚悟なのだ。そのボクの全力の熱量に対して、まもなく梶原からとても短い返信メールが届いた。
『うん』
アイツ、殺してやろうかしら。
恥ずかしさに押し殺されそうになりヒーヒー言いながらムービーを撮ったボクに対する敬意がまったく見られないし、なにより、若干ひいてる感じがある。そりゃ、こっちだって、相方相手に、弾き語りのムービーなんざ送りたくない。
もうちょっと、「了解。映像まで丁寧に添付してくれてありがとう」とか、「OK!明日までには絶対に覚えとくわ!」とか書けるだろう。それを、「うん」だと? ふざけるな。
もう、アイツ嫌い。




